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牛田
(勤務医) |
(斉藤に電話をかけるが留守電になりメッセージを残す)
えー、誠同病院の牛田です。
院長が、また斉藤君に当直のバイトを頼めないかと申しておりまして…
留守電に気づいたら、連絡を下さーい
またこちらからも連絡します。 |
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斉藤 M
(研修医) |
一週間前…僕は当直のバイト先の病院で瀕死の患者を目の前に逃げ出した。
あの時、院長が来なければ患者は確実に死んでいた…
僕は…あの時の答えは…まだ出ないままでいる… |
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斉藤 |
ああ!田舎に帰りてええええ!! |
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N |
ブラックジャックによろしく 第二話 「75歳の値段」
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季節は夏、斉藤の鬱屈した思いとは関係なく、大学病院での日々は続いていた。
入院病棟へ診察に回る斉藤と 同僚研修医の出久根。 |
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斉藤 |
おはようございまーす! これより採血の時間でーす |
患者(女) |
(採血中)
ねえ先生~、お医者様ってお給料いいんでしょぉ-?
先生独身だったかしら?今度ウチの娘と会ってやってよー |
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斉藤 |
(採血を終えて)
ははは、そんな儲からないですよー。
はい、それではおつかれさまでしたー。 |
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斉藤 |
はあ、なぜみんな医者を金持ちと思っているんだろう?
僕の月給は3万8千円!
当直のバイトでもしなきゃ生活もできないほどビンボーなのに!! |
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出久根
(研修医) |
わかったからさあ…オレにあたるなよ… |
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白鳥
(第一外科指導医) |
えー本日より7月、研修医諸君も3ヶ月の基礎研修を終え、
いよいよ本格的な研修に入って貰うことになった。
当、第一外科で研修するものは7名。
それじゃあ用意の出来た者から、手術場(しゅじゅつば)に入るように。
全員揃ったところで、説明を始めるぞー! |
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N |
大学病院とは、教育・研究・診療の3つを目的とした特殊な病院であり
通常、大学の医学部に附属して設置されている。
つまり大学病院とは、診療 だけを目的とした病院ではないのだ。 |
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白鳥 |
本日の患者は75歳の男性
肝硬変による食道 静脈瘤 破裂と
肝性昏睡を合併している。 |
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N |
第一外科、主に食道・胃・腸や肝臓の手術を担当する科だ。
大学病院での研修医の研修方式は、大きく分けて2つある。
ひとつ目は最初からひとつの科に所属し、そこで集中して学ぶストレート方式。
もうひとつは、2年間で全ての科を回る、スーパーローテート方式だ。
永禄(えいろく)大学附属病院の場合は、スーパーローテート方式で、
研修医は1つの科に2、3ヶ月かけて、色々な科で研修を行う。
そして2年間のうちに、それぞれが自分の進むべき科を決めていくことになる。 |
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白鳥 |
まもなく、春日部教授がいらっしゃる。
今日は教授みずから執刀されるとのことだ。 |
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N |
ゴッドハンド、春日部教授
永大の奇跡、手術歴30年にして手術ミスなどの術後トラブルは一例もない。 |
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春日部
(第一外科教授) |
はい、どうも。
それじゃあ、メス。
(メスを握りしめ、しばらく呼吸を整えてからメスを入れる)
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春日部 |
(最初の切り口をいれてからすぐに)
ふぅ、ウナギとは違うもんですね。
それじゃ、あとは頼みますよ 私は研究に戻ります。
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白鳥 |
かしこまりました 見事な切り口です教授。 |
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斉藤 M |
…なんだったんだ…? 今の…教授…何のための執刀だったんだ…。 |
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白鳥 |
よし、手術を続けるぞ。
そこの研修医、こっちに戻れ。 |
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斉藤M |
(白鳥の執刀を見ながら)
それに比べてこの先生…早くはないけど、すごく仕事が丁寧だ… |
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N |
手術後、病院の食堂で昼食をとる斉藤と出久根 |
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出久根 |
自分が病気になったら 絶対に大学病院には入院しないね。
すっぱだかで手術台に載せられてさ、
俺達みたいな研修医にチンポみられるわけだろー。
なあ斉藤さあ、合コンしようぜ~~合コーン~
チンポばっかり見たくねーよお |
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斉藤 |
無理だよ…暇もお金もないもん。 |
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出久根 |
だったらまた当直のバイトやれよ~ 一晩で8万貰えるんだろ? |
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斉藤 |
…無理だよ…。
ねえ出久根くん、さっきの教授の執刀って何の意味があったのかな? |
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出久根 |
噂じゃ あの教授の手術は、いつも皮膚切開だけらしい…
普段はウナギの解剖実験ばっかりやってるってよ |
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斉藤 |
え?だって30年間、手術ミスがない人なんだろ? |
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出久根 |
そりゃ30年間、皮膚切開だけしてりゃ…確かに失敗はしてないよな |
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斉藤 |
あ… |
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出久根 |
結局、教授であるって事と、名医であるかどうかってのは無関係って事だな。
実験論文を書いて博士号をとり、その後もひたすら研究を続けて、
論文を量産した人が教授になる。
患者の為に病院の中を走り回り、腕を磨き続けた人は
教授になれない…。 |
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斉藤 |
でもさ…もしも腕に自信ないなら、執刀なんてしなきゃいいじゃないか
だって「教授」なんだよ きっと何か意味があって… |
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白鳥 |
(話に割って入るように)
この場合は金だ 教授は患者の家族から100万ほど受け取っている。
家族からすれば 天下の永大教授に頼めば安心と思ったんだろう。 |
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斉藤 |
あなたは、確かさっきの執刀医の… |
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白鳥 |
第一外科の白鳥貴久だ
君たち2人の指導医をやらせてもらう事になっている。
食事が終わったら来てくれ、午後から君たちにも仕事をしてもらう。 |
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N |
永禄大学附属病院 集中治療室 |
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斉藤 |
この患者さんは、さっき手術したばかりのおじいさんですよね… |
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白鳥 |
今のところ 状態は安定している
一応手術は成功したが、今後も意識を回復する可能性は低い
重度の肝不全合併で昏睡状態…食道 静脈瘤 破裂による大出血で
腎不全も伴っている…
斉藤先生、君にはこの患者の受け持ちをお願いする。
利尿剤で尿量を確保して、手術記録を書いておいてくれ。
今やることはそれだけだ。
出久根先生、君には別の患者を紹介する。 |
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斉藤 |
え!?僕と一緒じゃないんですか? |
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白鳥 |
何言ってるんだ?
このくらい研修医1人でやるのは、どの病院でも常識だぞ。
この患者の受け持ち医は、君だ。 |
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斉藤 M |
金子敏夫 75歳
昨日 自宅で倒れ意識不明のまま、この病院へ運び込まれた。
この人の生死は…僕が握っている… |
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誠同病院院長 |
(逃げ出した斉藤に説教する回想シーン)
「お前は医者だ…新人だろうが半人前だろうが、
患者にとって、お前は医者だ。」 |
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斉藤 M |
これは試練だ…
僕が本物の医者になれるかどうか、試されている。
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看護師 |
あら先生、もう深夜2時ですよ~?
まだ金子さんのところで残ってらしたんですか? |
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斉藤 |
はい、ちょっと気になったもので… |
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N |
夜が明け、永禄大学附属病院 第一外科病棟 |
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斉藤 |
(元気よく廊下の入院患者に)
おはようございまーーす! おはようございまーーす |
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出久根 |
どうしたんだ斉藤…
今日はやけに気合い入ってんじゃねえか… |
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斉藤 |
(扉を開けて)
失礼しまーーす |
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白鳥 |
なに?血小板60単位、プラズマネートカッター6本 ベニロン5g
斉藤先生、これを全部、あの金子老人にやったのかね? |
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斉藤 |
(はりきって)
はい!!おかげで患者は今日も良好です!! |
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白鳥 |
…。
余計な事はしなくていい、治療の指示は私が出す。 |
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N |
金子のいる病室で、家族と執刀医達が顔をあわせる。 |
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金子の家族 |
ありがとうございます!先生!
こんな偉い先生に手術していただいて、
じいちゃんも、きっと満足しとるです! |
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春日部教授 |
えー術後の経過は順調です。
手術は100%成功ですが、心臓に合併症がありますので…
まあここから先は、正直言って本人の生命力次第です。
肺塞栓をおこさず回復できるかどうか…
うーん心不全もありますし…
あ、ちなみにこちらは手術の助手をつとめた白鳥先生でして、
あっちは受け持ちの研修医でして、えーーーーと? |
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斉藤 |
(はりきって) 斉藤ですっ! |
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N |
金子敏夫の家族と話を終え、
斉藤は出久根とともに白鳥に連れられ
別の受け持ち患者のところへ回診に行く。 |
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白鳥 |
桑沢さん、すっかりよくなりましたね。
午後には退院できるように手続きをとっておきましょう。 |
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桑沢(入院患者) |
ああそうだ先生、せっかくだから最後に1本点滴打ってくださいよー。
あれやると、ぐーんと元気が出るんですよね
あたし、いっつも調子が悪いと、近くの診療所で打ってもらってるのよ。 |
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白鳥 |
うーーーーん、点滴ですか
桑沢さん、点滴の中身がなにかご存じですか? |
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桑沢 |
いいえ?? |
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白鳥 |
(優しい笑顔で)
500ccの点滴の中身は、25gのブドウ糖に過ぎません。
牛乳コップ半分程度 わずか100キロカロリーの栄養分なんですよ。 |
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桑沢 |
あらま?ということは何ですか??
点滴ってあんまり意味はないんですか? |
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白鳥 |
ええ、まあおまじないのようなものです。
脱水症状もないのに点滴を打つのは日本だけなんですよ |
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桑沢 |
(ものすごく納得して)
あら~そうなの~ |
N |
回診を終え、休憩室で話をする斉藤と煙草を吸う出久根。 |
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斉藤 |
意外だったな…白鳥先生って患者さんの前では笑顔も見せるんだ…
だけど点滴をすすめない医者なんて珍しいよね… |
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出久根 |
点滴の成分なんて そんなもんだし 注射料も入れると 1本千円以上するからな。
患者は一割負担だから百円しか払わないけどね
確かに病院は、ちゃんと千円もうかってる。
そういうムダが積もり積もって、国の医療財政を圧迫するんだよな… |
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斉藤 |
僕も今朝、よけいな治療をするなって怒られたんだ…
それも医療費の無駄遣いをやめろって事なのかな…? |
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出久根 |
無理して頑張ることねーよ…どうせ給料3万8千円のままだし… |
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斉藤 |
違う!僕は今度こそ!あの当直での失敗を乗り越えたいんだ!! |
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出久根 |
だったら、おまえ当直のバイトいけよ… |
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斉藤 |
そ、それは…。 |
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斉藤 M |
その日、アパートへ帰るとハガキが1枚届いていた。
僕が当直のバイトをし重症患者のあまりの惨状から逃げ出してしまったときの
誠同病院の牛田先生からだった。 |
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牛田 |
(ハガキの文面)
「いえーい、元気か?永大出! なかなか電話が繋がらないのでハガキを出した。
この間の患者は順調に回復してるぞーまたこっちにもバイトにこいよ!」 |
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斉藤 |
……。 |
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N |
翌日、永禄大学附属病院 第一外科 事務室にて。 |
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斉藤 |
あの、白鳥先生
金子さん、昨日から無尿状態が続いていて
BUNが110まで上昇しました。 腹膜透析を開始したいのですが…。 |
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白鳥 |
(パソコンを打ちながら)
…何もしなくていい…。 |
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斉藤 |
ですが先生、このままでは金子さんの容体は |
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白鳥 |
(パソコンから斉藤の方に振り返り)
…君にはまだ分からないのか? あの手術の意味が。 |
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斉藤 |
え……? |
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白鳥 |
患者は自宅で倒れ、意識不明のまま ここへ運ばれてきた。
それにもかかわらず手術が行われたのは、一日たった後だった。
今にも死にそうな患者を前に、すぐ手術をしなかった理由が 何か 分かるか? |
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斉藤 |
……? |
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白鳥 |
常識的に考えて手遅れだったからだ。 |
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斉藤 |
!!! だ、だけど… 結局手術はしたじゃないですか…? |
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白鳥 |
教授の指示だ…
教授が患者の家族から100万円を受け取ったというのは言ったはずだ。
我々はその100万のためだけに、無意味に 老人の体を切り刻んだ…。 |
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斉藤 |
え……。 |
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白鳥 |
つまり…これ以上の治療は無駄だ。 |
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斉藤 |
……。 |
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白鳥 |
保険制度のおかげで 患者の支払う医療費は、月数万程度だが
現実には、その末期医療に1千万もの金がかかる。
その金を国民全員が出し合ってストックした医療費の中から出すんだぞ、
君は回復の見込みが殆どない老人を数ヶ月延命するためだけに
何千万円もの国民の金を使うのか?
無駄な延命治療は社会悪だ。 |
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N |
そんな日本の医療財政の脆さの現実を突きつけられ、
斉藤は自己満足に溺れていた自分を知り、
昏睡状態の金子を前に、病室で1人悔し涙を流すのであった。 |
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斉藤 |
だったら…なんで、手術なんかしたんだ?
延命治療が社会悪だなんて言い切るくらいなら…
なんで教授の指示には逆らわなかったんだ…!?
僕も同じだ…僕も…白鳥先生には一言も言い返さなかった…。
患者さんのことなんて…考えてなかった…
”これは試練だ” ”この人を救えば自分は一人前の医者だ” 僕が考えていたのは
結局自分のことばかりだ…
当直のバイトの事だって、患者さんから逃げ出した自分の失敗にばかりこだわって…
ハガキがくるまで、その患者さんのことなんてすっかり忘れていた…
この人の家族は、一体どんな気持ちで…100万円出したんだ…
おじいさん、あなたは…生きたいですか…?
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N |
夜中の病院には死神が歩く…
永禄大学附属病院 病床数1千100…
一晩で、何人の人が亡くなるのであろうか |
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看護師 |
先生!大変です!起きて下さい斉藤先生!
金子さんの容体が急変しました!起きて下さい!! |
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N |
午前1時20分
金子敏夫の容体が急変 心臓が停止する。 |
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斉藤 |
(必死に心臓マッサージをする)
ハッハッ い、生き返れ! ハッハッハッハッ ええい、生き返れ!!! |
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N |
翌朝、金子の家族が春日部教授のいる診察室に集められ、
心拍は戻るも今後の状況は非常に厳しいことが伝えられる。
金子がいる集中治療室で向き合う白鳥と斉藤 |
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白鳥 |
どうして…そのまま死なせてやらなかったんだ…斉藤先生
やるなといった腹膜透析まで行うなんて…
くどいようだが、単なる延命処置は 国民の医療費の無駄遣いだ。 |
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斉藤 |
白鳥先生、医者が患者を助けようとするのが、そんなにいけない事ですか!? |
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白鳥 |
私はこういう患者を何百も見て来た
死にゆく者は、静かにみとるべきだ。 |
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斉藤 |
それじゃあ、だまって死ぬのを見てろって言うんですか? |
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白鳥 |
その通りだ。 |
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N |
今後が見えない金子の家族は、診察室で淡々とすすめる春日部教授の説明にただ戸惑うばかりである。
そんな家族に、白鳥から延命処置中止の方針が伝えられる。
家族はその方針を受け入れ、今後の流れについて白鳥から説明を受ける。
斉藤は1人集中治療室で昏睡状態の金子と向き合う。 |
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斉藤 |
おじいさん…あなたは本当に意識がないんですか?
もしかして目も口も体も動かせなくて、自分の思ってる事を人に伝えられないだけじゃないですか?
教えてください…あなた本当に、こんな最期でいいんですか…? |
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N |
7月6日
延命処置中止から3日が経過した。 |
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斉藤 |
おじいさん…息子さんも誰も来なくなっちゃいましたね…
手術の時は、あなたのために100万円も出したのに…
死ぬと決まったら、見舞いにすら来ないんですね…
なんだったんですかね…? あの100万円は、あなたへの餞別だったのかな…? |
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看護師 |
おはようございますー (斉藤を横に金子の体を拭きだす) |
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斉藤 |
…なに、やっているんですか…? |
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看護師 |
え?そりゃ先生、意識がなくても体は汚れますし、
動かさないと床ずれもできちゃいますからねー |
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斉藤 |
……。
あっ! |
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看護師 |
うん? |
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斉藤 |
伸びてる…ヒゲが…伸びている… |
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金子敏夫 M
(75歳) |
助けてくれよ先生… お願いだよ先生…
オレは…まだ、死にたくねえんだ… なんとかしてくれよ先生…
お医者は偉いから先生って呼ばれてるんだろ… |
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斉藤 M |
(処置室を飛び出し第一外科事務室へ向かう)
たとえ意識を回復する可能性が1%しかなかったとしても、
医療側の都合で治療をやめるのは間違いだ。 |
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誠同病院長
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(逃げ出した斉藤に説教する回想シーン)
「どうせ死ぬなら腹をあけろ なんにもしないよりマシだ」
「お前は医者だ 新人だろうが 半人前だろうが お前は医者なんだ」 |
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斉藤 M |
僕は、医者だ!!! |
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斉藤 |
(白鳥のいる部屋の扉をあける)
失礼します!白鳥先生! |
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白鳥 |
なんだね斉藤先生、何か用かね? |
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斉藤 |
お、お願いします…金子さんに腹膜透析や輸血をやらせてください…
お願いします!!!金子さんの延命処置を再開させてくださいっ!!! |
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白鳥 |
……何度言わせる気だ?
無駄な延命処置は社会悪だ、君はなんとなく手を尽くした気になって
自分を納得させたいだけだ。
そんな自己満足に投じる大金はない! |
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斉藤 |
(頭をひたすら下げ)
……初めて金子さんの手術をしている先生を見たとき…僕はちょっと感動しました。
自分が病気になったとしたら、先生みたいな人に手術してもらいたいと思いました…
先生は、あの手術の時 何を考えていたのですか…?
どうせ死ぬと思っていたんなら…なんであんな丁寧な手術をしたんですか? |
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白鳥 |
私は外科医だ 自分の仕事にプライドを持っている |
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斉藤 |
あのおじいさんを!!助けたかったからじゃないんですか!!??
延命処置が医療財政を圧迫するのは確かです!
でも!1%でも可能性があれば!目の前の患者を救おうとするのが医者でしょう!!? |
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白鳥 |
し、素人みたいな事を言うな!
そういう安っぽい医者が 医療の未来を閉ざすんだ。 |
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斉藤 |
だったら!先生だって変ですよ!先生は無意味な手術をして
医療財政を圧迫した! |
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白鳥 |
…教授の指示だ…私の意志ではない…。 |
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斉藤 |
そんなのズルイですよ!教授がウンコ食えって言ったら食べるんですか!!? |
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白鳥 |
うまそうにウンコを喰ってやる!!そのくらいの覚悟だ!
私は…将来必ず!この大学の教授になる!!
教授になってまずはこの大学を変える!全国にある永大の関連病院を変える!
そして…日本の医療を変える!! |
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斉藤 |
……。 |
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白鳥 |
…結果的に、それがより多くの人を救う道だ!! |
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斉藤 |
…そんな、理屈が聞きたいんじゃありません…
先生は、あの患者さんをどう思ってるんですか?
先生は………
あの患者さんを助けたくないんですか!!? |
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白鳥 |
………………………………………………………………。 |
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斉藤 |
…輸血と腹膜透析を再開します…。
あの患者の担当医は、僕です! |
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N |
7月7日
金子への輸血と腹膜透析が再開された。
ほどなくして金子の家族が再び見舞いに来るようになった。 |
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金子の家族 |
(アドリブで数人ほど和やかな病室な雰囲気で)
(子や孫が昏睡状態のじいさんにいろいろ話しかけたりする) |
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斉藤 M |
白鳥先生…僕には、このおじいさんが生きたいと思ってるかどうか
本当はわかりません…。
だけど…少なくとも家族は、こんなに強く生きて欲しいと願っています…。
強く……。 |
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N |
金子敏夫
享年 75歳
斉藤が、初めて受け持った患者だった。 |
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金子の家族 |
荷物はこれで全部だね。
それじゃあ本当にありがとうございました。 |
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斉藤 |
申し訳ありませんでした。 僕にもっと力があれば…。 |
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金子の家族 |
先生…じいちゃんが倒れたとき、なんとか助けて欲しいと思って
教授さんにお金をお渡ししました。
だけどもし、助かっても寝たきりになったら、共働きだしどうしようって
そんな気持ちも、少しだけありました…。
だから延命処置を、おやめになると言われたとき…
うしろめたくて、病院に来られませんでした…。 |
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斉藤・白鳥 |
……。 |
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金子の家族 |
じいちゃんは、いい死に方をしました。
最期まで…ありがとうございました。
それでは、失礼します。 |
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斉藤 M |
(金子の家族が去ってから)
死に方にいいも悪いもない
死ねば皆同じだ………僕は…あの患者さんを救えなかった…。
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白鳥 |
斉藤先生、君は…ずっとこんな事を繰り返すのか… |
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斉藤 |
……。 |
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白鳥 |
この先……今回のような患者にはいくらでも出会うぞ… |
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N |
そんな白鳥の目には、涙が浮かんでいた。
斉藤はこの日、
逃げ出して以来連絡を絶っていた 当直アルバイトの誠同病院に、電話をするのであった。 |
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N |
現在の日本の国民医療費は30兆円を優に超えている。
このうち高齢者に係わる老人医療費は全体の三分の一を占め、
近年では過去最大の伸びを記録し続けている。
その勢いは国民所得の増加率を遥かに凌ぎ、10年後には50兆円になるとも言われている。 |
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